7.環境の変化と風水
風水が体系化されてから2000年が経過しましたから、当然ながら取り巻く環境も全く異なります。
地球の地磁気が人体に与える影響という根本的な部分は全く変わっていませんので、地球と人間が存在する限り風水法則は枯れることなく、強い影響を及ぼし続けることは確かです。
しかし、風水の中で大きなウエイトを占める「水」の流れに関して言えば、当初はトイレ、浴室、キッチンなどの「水場」では不衛生な水が集まりやすい場所であったため、風水上もこれらの場所を特に重点的に風水対策しなければなりませんでした。一方で現代は先進国では極めて清潔な水洗トイレに代わっていますし、浴室やキッチンの排水も下水道を通じて屋外に排出されるようになりました。もちろん上下水道が整備されていない国や地域では、不衛生な水の影響が依然として大きく残りますが、日本では大幅にその影響力は減っているのです。そのため「水場」の風水対策についても昔ほど重視する必要がなくなりました。
また、徒歩か馬が唯一の移動手段だった時代と比べて現代は、自動車、高速鉄道、飛行機などが存在する時代です。
昔に比べて格段に「人が移動をしたときの地磁気の差(気のギャップ)」を受けやすい環境に変わったわけです。そのため「正統派風水」のような陽宅風水よりも、「九星気学」のような「方位術」のほうが必然的にウエイトが高くなっていきます。
磁北と真北
日本の風水を混乱させてきたもう1つの要因として「方位の基準」の問題があります。
それは方位を決めるにあたって「北」をどの位置にするか、というものです。
多くの方が「北」というのは北極点のある場所と思われているかと思いますが、実際には少し異なります。
方位磁石が指す「北」は、実際には北極点よりも少しずれた位置になります。方位磁石が指す北のことを「磁北」と言います。一方で北極点のある場所を「真北」と言います。「真北」は地球という球体の頂点であり、北緯90度という物理的な「北」です。
九星気学も、四柱推命も、奇門遁甲も、陰陽五行説を起源とした風水術はすべて、方位磁石を使って方位を確定させます。つまり「磁北」が唯一の基準です。そのため「真北」を基準にした風水理論というのはすべて間違いです。
しかしながら、なぜ「真北」を北と定めた風水理論が残っているかと言いますと、昔は方位磁石がすぐに手に入るわけではなかったため、臨時対応として北極星を北の基準として代用をすることがありました。昔の中国は「磁北」と「真北」の差(偏角と言います)がなかったため、長い間「磁北」イコール「真北」でした。つまり、古代中国であれば北極星で北方位を計算しても、ズレはなかったのです。
しかし「偏角」は絶えず変わります。中国大陸ではあまり偏角はありませんが、それ以外の国では10年で1度から2度くらいは絶えず変化するのが一般的です。つまり、方位磁石が指す北方位というのは、時代によって常に変わるわけです。
風水師が方位を計測するときに使う代表的アイテムが「羅盤」です。
この羅盤の中央には必ず方位磁石が備え付けてあり、すべて方位磁石を基準に風水術は始まります。これを無視して「真北」を基準にしてしまうと、すべての法則が狂ってしまうのです。
日本に一部残る「真北」を基準にした風水術・九星術は『滅蠻経』の影響ではなく、明治以降に一部の流派で間違って取り入れてしまったものです。日本には中国とは異なる大きな偏角があることを知らずに、北極星で磁北の代用をしていた中国の方法をそのまま取り入れてしまい、そのまま流派全体に流布してしまったため、後から間違いを指摘されても、引くに引けない状態となって今に至ります。また、四柱推命から派生した「紫微斗数」という占術があるのですが、北極星のことを紫微星と呼ぶため、日本に「紫微斗数」が伝わったときに、北極星を基準にするという間違った解釈が一人歩きしてしまったケースもあります。
さらに言えば、ハワイは地磁気上で東方位になるのですが、ある流派ではこれを東南方位として発表してしまいます。角度が正確なメルカトル図法の地図(小学校などで教室に貼られている長方形の地図)をみて、そのまま東南方位としてしまったのでしょう。地球は球体ですから平面の地図に表現するには「角度・距離・面積」のどれか1つを犠牲にしなければなりません。ただし方位を表記するためには、「角度」を犠牲にした正距方位図かランベルト正積方位図を使わないとならないのですが、安易に日常で使う地図を用いてしまったが故に、マスコミから大きくたたかれる失態をしてしまうわけです。(2000年前にはハワイほどの遠距離へ行く手段はありませんでしたから、推測で発表してしまうのも無理はありません。)
ちなみにこの流派では日本から見た「スイス」の方位を北(フランス側)から入国したら西北方位、南(イタリア側)から入国したら西方位、などという極めてユニークな見解も示しており、日本の風水ブームを一気に冷めさせた原因になっています。